北海道大学認知行動科学研究室
北大にある、認知行動科学の研究室です。 Department of Psychology - Hokkaido University

配属希望者向け Q&A

Q: 3年生で研究室配属になったら、研究室ではどんな授業がありますか?

A: 心理学特殊演習(前期・後期)があります。これはミニ卒論みたいなものです。

毎週月曜にメンバのうち誰かが発表します。わたくし(河原)が発表することもあります。前期のうちに論文を一人2篇程度読んで、実験を始めます。そして、後期にさらに論文を読み、被験者を追加して、1つ実験をします。これを後期の学期末までに論文形式にまとめます。これは卒論の骨組みになるものです。これを作成する段階で、報告書文章の書き方を学びます。

Q: なぜ毎週打ち合わせするのですか?

A: そのほうが最終的によい結果を生むからです。

これまでの卒論生さんの進捗を見るにつけ、毎週確認した方が最終的な到達点が高くなることがわかっています。目標があったほうが準備がしやすいですし、間違いが少なくなって安全です。学生さんの希望や研究テーマに応じて、必要があれば補助します。放ったらかしにはしません。

基本は毎週打ち合わせですが、祭日があったり、試験があったり、就職活動があったり、教員が出張で不在だったりしますので、月に3回だとすると、半期に18回、年に36回、u3-u4の間に理想では72回のステップで卒論に到ります。それくらいして 作り上げるくらいの卒論を本研究室は目指します。

国公立私立を問わず大雑把に調べたところ、卒論の前に個人やグループでミニ卒論のようなことを経験してから卒論を書く大学が半数にやや満たないくらいあるようです。そういう授業体系の場合は、研究室配属が遅めです。本学は逆に、u3春から研究室配属ですから、配属先でミニ卒論を経験するのがよいと思います(上述のミニ卒論)。Muller-Lyer錯視のレベルと卒論レベルは同じではありません。そのため、ミニ卒論の経験は必要です。本研究室ではu3の間に、まず基礎実習の次のレベルの実験を早いうちに経験します。その経験をもとに卒論を考えます。
これまでの卒論

Q: テーマは自分で考えたいのですが。

A: もちろんそれも大歓迎です。

どうせ時間をかけるなら、自分のやりたいことが一番よいと思います。ただし、重要な条件が1つだけあります。それはその自分で考えたことが、卒論として実行 可能な内容であることです。卒論は提出期限がありますから、あまりに計画が壮大すぎたり、抽象的すぎると1つの卒論としてu3-u4の間には完成しません。そのような場合には、期限内に間に合うよう、現実的な視点から助言します。

これまでいろいろな人から聞いたり見たりした経験では、u3になって卒論のテーマを自力で探し始めても、すぐに実行可能な内容が見つかることは非常に希です。全部自力だと、世の中には、u3中探し続けて見つからず、u4前期でもまだ論文を探しているケースもあると聞きます。それだと上述のミニ卒論どころではなくなるので、とっかかりとして論文を紹介しています。

研究論文は国内外の研究者が生活を懸けて死ぬ気でやっている内容が載っています。中には非常に面白く、発展性のある研究論文もありますが、必ずしも全てがそうではありません。言い方は悪いのですが、重箱の隅をつつく話もあります(わたくしもそのような研究をしないように努めてはいますが、該当するかもしれません)。そのため、基礎実習の知識だけでは、俄には見分けが付かないこともあるので、選ぶ最初のガイドとしての論文紹介をします。

Q: 結局、どういうひとがこの研究室に向いているのですか。

A: 楽しく卒論をしたい人は向いていると思います。

学部3年、4年で認知心理学、行動科学について楽しく、実践的に勉強したい人も向いています。また、大学院志望の人もよいかと思います。認知系、実験系の大学院進学や、学術界で生きて行く覚悟を決めた人には特に、本研究室への進級を歓迎します。そういう人にはそのような職が得られるよう、本気で指導します。ストレスや個人特性に関心がある場合は、卒論でそれらをテーマにすることができます。事前に相談して貰えれば、よりよい方向性を考えることができます。

公務員試験の準備をしつつ、安定した卒論計画をしたいというのであれば、上述の路線をややマイルドにした卒論指導もします。計画的に実験をしますので、試験スケジュールに合わせて、勉強時間や勉強場所が確保できるように配慮します。この辺りも事前に相談して決めたいと思います。

Q: 研究室行事はなにがありますか?

A: 各種お祝い会に加えて、調査出張、卒論週間を企画しています。

各種お祝い(新メンバー歓迎、卒業・修了祝い、受賞祝い、論文採択、大会出場)のようなあるある行事はやっぱり致します。このほか、希望参加者が複数あれば研究調査出張を実施します(旅費補助ありの予定)。卒論週間は、秋頃に卒論生が約3日間研究室に集結し、一気に卒論を進める行事です。

Q: 実験をするなら、自分で被験者を集めなければなりませんか?

A: いいえ。

卒論生が個別に一人一人にあたって営業活動のようにするような被験者募集はしない方針です。むしろ、被験者募集は研究室全体で掲示を出し、被験者募集システムを使って予約します。

Q: 認知行動科学研究室は心理学研究室の中にありますか?

A: はい、そうです。

文学部/文学院には大きく分けて、心理学研究室と行動科学研究室があります。平たく言って、心理学研究室が認知心理学、行動科学研究室が社会心理学専門です。それぞれの中にさらに各教員がもつ研究室があるという構造です。認知行動科学研究室というのは、認知心理学研究室の中にあるのですが、認知行動科学という部分が紛らわしいのです。この点は北大文学院・行動科学研究室の先生方には申し訳ないと思っていますが、産業技術総合研究所に務めていた頃の所属グループ名を汲んだ研究室名にしています。当時の気持ちを一部引き継いでいるつもりのわたくしとしては、 北海道大学赴任以前からの大切な名前なのでこのままにしています。

(ここからは大学院についてです)

Q: 大学院入試のスケジュールなどは?試験対策は?

A: ここです。過去問題などもあります。

早めに準備するのがよいと思います。知覚・認知心理学の領域にかかわらず、熱意のある学生さんの応募を広く歓迎しています。詳しくはこちらへ、お気軽にお問い合わせ下さい。研究室見学の予約も受け付けています。自分の研究内容は認知行動科学研究室のテーマに合っているだろうか、等の気がかりなことがある場合でもお問い合わせ頂ければご相談に対応できます。

Q: 大学院へ進学するのは賭ですよね?

A: 言い方次第ですが。。公務員試験も賭ですから、倍率からしたら大学院のほうがよほど生温いと思います。

また、一般企業に就職したとしても、そこが来年も存在するかはわかりません。外国企業に買われてしまうかもしれません。自分の判断や決定で裁量が多いのが進学の道だと思います。

別の見方として、リスクを負わなければ得られるものも少なくなるのが世の常です。特に、若くて活力があるうちにそういう勝負をしておくのがよいと思います。このとき、青春を無駄にしないように、可能な限り手助けをします。学生さんの自助努力と教員の援助がどちらかに偏りすぎないような研究室にしたいと思っています。

Q: 大学院(とくに博士課程)進学か、修士修了、学部卒で就職するか悩んでいます。どうしたらよいでしょう?

A: 悩みますよね。何になりたいかをまず決めましょう。

この業界で生きてゆくこと、研究者・大学教員(いわゆるアカデミックポスト、アカポス)を目指すのであれば、次のいくつかに当てはまっているかを考えましょう。このうち、1つも当てはまらない場合は不向きかもしれません。

興味が持てる研究内容があること
何か研究の話を聞いたり読んだりして、ピコーンと来ましたか。へぇ、面白そう!と思いましたか。この業界で生きてゆくには、そういう直感が必要です。
なりたい自分があること
この業界で○○を明らかにしたいとか、●●さんのような生き方にあこがれるとか、何でもよいです。こうなりたいという未来予想図が必要です。他に就職がなさそうだし……という消去法だと、なりたい自分を持っている人に勝てません。"いや、勝つとか負けるとかそういう話じゃないし。別に人と競っているわけではないし。"という人もいるかもしれません。そうはいっても、この業界は自営業者たちの戦争のようなものです。ポスト(就職先)の数は有限ですので、良いところから順に埋まってゆきます。評価され、その洗礼を受けて就職が決まります。
無欲が美徳の場合もありますが、ひとまず職に就くまでは競争ですので、そこは欲を出しましょう。ガツガツしすぎる人は煙たがられるかもしれませんが、常識的な向上心や競争に勝とうとする力は必要です。何故かというと、当然ですが、採用先はその組織にとって有用な人に来て貰いたいからです。若いのに欲がなさすぎる人は、もしかしたら評価されることを極端に避けているのかもしれません。大学では学生さんを評価しなければならない場面もありますので、それをする教員が評価されることを極端に嫌っているのであれば示しが付きません。また、そんな教員に教えられる学生さんはお気の毒です。従って、そういう人はこの業界に向いていないかもしれません。
信念だけは貫き通す意志があること
上述の点にも一部類似しますが、意思の力は必須です。この業界は自営業であるので、自分で計画を立てて活動しなければダラダラになってしまいます。そうならないためこは自律が必要です。また、もう少し具体的に言うと、論文を刊行するには査読(他の研究者からの刊行前の事前評価)が付きものです。それには厳しいことも書いてありますので、めげてしまいたくなる日もあります。また、実験等がうまくいかなかったり、公募の不採用通知が来て、迷子になりそうな日もあります。そのようなことはあっても、信念だけは貫き通せるかが重要です。先へ進むための意思の力が必要です。
ある程度の学問能力があること
普通の大学生であるならばまず問題はないと思います。ただ、英語が極端に苦手とか、統計は全く分からないとかに加えて、そういうことの技能獲得はしたくないし、自分にはできないと思う人は別の業界に行った方がよいでしょう。何らかの授業で非常に良い成績を取ったことがあったり、何か大学の学業で褒められたことが一度でもあればこの項目はクリアだと思います。そういうことが一度もないと危ういかもしれません。
若干の経済力があること
この項目は必須ではありません。しかし、経済力はあったほうがかなり有利だと思います。本来、研究業は後援者がいて成り立つものだったと思います。貧窮している間は毎日の生活の糧を集めるのに費やされてしまいます。勤労学生生活は、悪いことではなく、立派ではありますが同年代の競争相手で経済力のある者は、こちらが働いている間に論文を読んだり書いたり実験したりしています。この業界では、時間をかけさえすればよいというものではありませんが、そうはいっても新しい情報を得たり、実験準備や作業には時間が必要です。したがって、生活費を得るのに時間が必要な場合は、その必要がない競争相手と差が開く可能性があることを承知しておく必要があります。
この業界へ進まず、企業に就職したり公僕になった同級生から見ると、いい年をしてまだ学生をしていることを引け目に思うかもしれません。それはあまり気にしても仕方がありません。何事にも始まりは少しパワーが必要です。研究業界で自立するにもパワーが必要です。大学院の間はそのパワーを溜め、増幅する方法を学ぶ時期です。投資なくしては得るものもありません。また、場合によっては親に学費を出して貰ったりすることもあるかもしれません。親がそうしてもよい、と言ってくれるのであれば、それは感謝して受ければよいと思います。親は子が生き延びることを願っているので、それをありがたく受けとり、実際に生き延びることが子の役目だと思います。そして、自分の子がそれを願うならば、同様のことをして生き延びる可能性を増やせばよいと思います。
また、今頃は日本学術振興会特別研究員以外にも、大学が大学院生へ独自の研究・生活支援をする例が多くなってきました。北海道大学にもそういった支援があり(北海道大学DX博士人材フェローシップ)、努力に見合った形で比較的得られやすくなっています。ちゃんと成果を出せる人にはよりよい経済的支援が受けられるよい形になってきていると思います。

Q: 学部は心理学専攻ではないのですが、大学院進学できますか?

A: 隣接分野であれば概ね差し支えありません。

修士課程では、2年で修士論文を仕上げる必要があります。それに間に合う程度のテーマに取り組むのであれば十分に可能性はあります。実際に、別分野から進学をしてとてもうまく研究展開をしている先輩もいます。ただし、その前に大学院の試験がありますので、それを超えられるだけの準備が必要です。早めにお問い合わせ頂ければ、前もって準備しておいたらよいことを案内できます。この準備の程度が進んでいるほど進学しやすくなりますし、進学後の経過も良好です。学部生から進学する際、どんな分野であっても卒業論文・卒業研究を単独で実施した経験が全くない場合は、だいぶたいへんになります。指導教員と相談し、進学前にそうした経験を積むことを強くお勧めします。

Q: 北海道大学とは別の大学の学部から進学しますが、留意点はありますか?

A: 一般論ですが、他大学から文系修士だけとりに来る場合は、専門的なことはほぼ何も学ばず終わるケースが少なくないことにご留意ください。

修士課程の1年目は比較的授業が多めにあり、忙しいです。そのため、修士論文の研究を進めるにはかなりの時間的な投資が必要です。研究室のない他大学から進学する場合は、夜遅くまであるいは土日も研究室で作業する必要が生じることがあります。そのような経験が(少)なく、授業だけ受けて帰宅するというような学部生生活をイメージされたま来られると、実際にすべきことのギャップに驚くことでしょう。専門家としての技能を2年で習得するつもりなら、相応の時間をかける必要があります。学部生の間に、研究室とはどういうものか、大学院生とはどういう仕事かを出身学部の指導先生からよく聞いてから来られることをお勧めします。
他大学の学部から来られて、修士の1年目の前期に授業をいくつか履修し、そのまま夏から企業インターンを始めてしまうと、そこから修士論文の研究は停滞するケースが非常に多いです。教員からしても、"就職活動のためインターン中です"と言われてしまうと、どれくらいそちらが忙しいかを一々聞けませんので、教員側から声をかけるタイミングがわかりません。そのため、修士論文の研究の進捗が滞り始めます。そのまま修士1年の秋を過ぎて冬から本格的な就職活動がはじまると、さらにその傾向は強まります。実際に、修士1年からほとんど研究室で姿を見ない、というケースもときどきあります。そういう方むけにも、個人用のPCを調達し、研究室に個人用の研究スペースを用意するのですが、ほとんど使用されていない状況が生じます。
採用する企業側も、修士から北海道大学という場合は、実施的に専門的に学ぶことに時間をかけていないことがわかってしまっていますので、修士だからといって専門性を加味されて就職活動が有利にはたらくということはほとんどありません。そうなった場合に、わざわざ修士だけを北海道大学で取得することだけを目的に(履歴書に"北海道大学大学院修士課程修了"という肩書きだけを目指して)来られることはメリットがあるか、疑問です。技術的には学部生と差がほとんどないため、2年分の時間と学費・生活費が勿体ない気もします。
具体的には、修士修了で企業就職する場合にどれくらいのスキルが身につくかを示す例として、過去に他大学から北海道大学大学院で心理学の修士課程からスタートして、最初から修士修了での就職を目指していた近所のケースをみると、12名中、論文を投稿し、採択までたどり着いた人は1名もいません。すなわち、修士を修了するだけでは自力で論文(人に見せられるだけの専門家としての報告書)を書ける技術は身につかないことを意味しています。一方、当初は博士課程への進学を目指し、就職にも興味をもっているうちに就職活動も上手くいったケースは2名中2名件あり、こちらはいずれも論文採択にまで到達しています。そのため、専門スキルを身につけたいのであれば、本気で取り組むまとまった時期が必要であることがわかります。なお、博士取得を目指して博士課程に進学した方々は全員博士を取得し、その道での就職をされています。

Q: 大学院へ進学したら、就職はありますか?

A: (頑張っている人には)あります。努力した分に対応してその先の道は開かれます。

わたくしも自分の未来さえ不明なので、他の人の未来を保証できません。わたくしの研究室は、院生が独り立ちできるように、研究の内容学と研究の方法学を伝えます。この業界は、自営業のようなものだと思います。研究者は自分でテーマ(販売品目)を設定し、論文を調べ(マーケティングをし)、実験をし論文を書き(工場を動かし)、刊行(販売)します。それが引用され(購入され)、評価されれば研究費が獲得でき(投資対象となれば)、次の研究テーマに投入できる資源が増えます。現在は特に人不足であり、日本の大学や研究所で日本国に貢献する研究者・教員として活躍できる人は必要とされています。

大学院では、この業界で生きて行くためにどうすれば良いかを伝えます。研究内容として、専門的なことが教える対象のひとつです。認知行動科学に関する内容学です。知覚、注意、認知、記憶そういう知見が教えるないようです。加えて、その知識をどうやって実験や調査の形で実現するかという方法学も教えます。論文の書き方、査読者との対応の仕方も技術ですから、教えることができます。
そういう技術は教えるものではなくて自ら努力して学び取るものだ、という考え方もあります。たしかに、ただ教えられるだけでは身につかない面もあるので、そういう言われ方をすることもあると思います。ただ、時間を掛けるべき所と、そうでなくて教えれば済む所もあり、自力でやると効率が悪いので、そこは教えます。そして、学生が自分で時間をかけるべきところはそうしてもらいます。何もかも与えられるわけではありません。

Q: 大学院に進学したら博士課程前期(修士、M)だけでなく、博士課程後期(博士、D)まで行かなくてはなりませんか?

A: それは個人が選択することであって、正解はありません。

博士課程前期を修了して企業へ就職した人もいますし、博士課程後期を修了してアカデミックポストについた人もいます。 博士課程後期を修了してから企業に行くケースや、特殊な能力があって自営業をするケースもあります。いまは心理学でも人が不足していて、北海道大学の心理学研究室でも後継者を育てたいと思っています。

Q: 博士課程後期まで行ってしまうと、道が狭まりますよね?

A: いいえ、とんでもない。

学位を取得する(博士(心理学)と名乗れるようになる)ことは自分が活躍できる道を広げることです。学位を取得することは、上述の自営業の免許を取得することなので、可能性は広がると思います。

非常に若い頃は何者にもなれる可能性がありますが、その頃はまだ知識も技術も必ずしも準備できていないことが多いので、何者にもなれない場合が多いでしょう。知識や技術を獲得した頃には、何者にもなれる可能性は捨てることになるでしょう。ただ、何者かになる(たとえば研究する仕事に就く)オプションを選択するということは、研究しない仕事に就くオプションを捨てることです。逆もまた同じです。両方同時には選択できません。何者かになるということは選択するということです。それは確かに、(職業選択の)横方向に道が狭まったというのかもしれませんが、(その業界でできることとしての)縦方向にはむしろ広がっています。

Q: 大学院の生活はどんな様子ですか?

A: 博士課程前期は授業がチラホラあります。

その合間を縫って論文を読んだり実験準備をしたり、実験をします。この大学院は修士論文(8単位)を含む32単位が修了に必要です。すなわち、授業としては24単位必要なので、1年に12単位、半期にならすと6単位(=3駒)ということです。

博士課程後期は授業はほとんどありません。その代わり、あとの時間は実験したり、論文を読んだり書いたりする時間に充てるのが普通です。そういうことをする時間は大学院と博士研究員(ポスドク)の時間がもっとも多く確保できます。この時期にそういう活動をできるだけしておくべきだと思います。このときこそ、業界人としての力を伸ばす機会です。一旦仕事に就いてしまうと、そういう時間は減る一方なので、時間を大切にされるのがよいと思います。こちらが大学のweb頁に出ている学生生活に関するお知らせです。

Q: 大学院生にとって必要なことはなんでしょう。

A: 毎日コツコツやることです。

大学院生という一種の学生ではありますが、もう学部学生とは違います。院生は自営業者みたいなものです。そのため、授業以外は自分である程度勤務時間を調整できます。将来の競争相手も同様にコツコツと毎日積み重ねていますから、毎日自分のすべきことをするのは当然ですね。当研究室のゆかりの人々はそういう積み重ねを経て立派なポジションを得ています。

Q: 大学院生の生活は、楽しいですか?

A: 平均すると、楽しいと思います。

若くてやる気のある時代ですので、やりがいがあって楽しいと思います。ただし、楽(ラク)していいとこ取りができる世界はありません。楽しく感じる部分と、しんどく感じる部分の釣り合いが取れていれば最終的には楽しいと思えるようになる気がします。ほどほどの楽観性とほどほどの心配な気持ちが混じり合うのが普通の大学院生生活だと思います。

Q: 研究の道とそうでない道の違いはなんでしょうか?

A: (大学教員としての)研究の道は、自分で決められる範囲が比較的大きいことだと思います。

まず、企業就職や一般の公務員に比べて、仕事内容は自分の裁量で決められる幅が比較的あると思います。もちろん、例外はどの仕事にもありますが、一般的にはそうだと思います。何でも好き勝手やってよいわけではなく、選べる自由があるということは、当然それに対応した責任も伴います。 加えて、大学教員の仕事としては、学生さんを世の中に送り出すという機能があります。これは(研究を主目的とした)研究所の研究職員の役割とも大きく異なります。自分の研究は刊行時点では最新ですが、やがて古くなって、ほとんどは忘れ去られます。一方、研究室を出た学生さんはその後も活躍し、行き先が大学ならばそこでさらに学生さんを世の中に送り出します。そういうつながりがある点からも、やり甲斐のある仕事だと思います。

Q: 進学を希望する場合、学部のあいだにやっておいたほうがよいことはありますか?

A: しっかりとした卒業論文を書くことです。

指導教員の先生と早めによく相談して、刊行できる水準の卒論にしておいて下さい。進学後の内容と異なる卒論であっても、どこかの学術誌で刊行できる水準のものであれば、その後の展開がしやすくなりますし、何よりも研究の基本的な作法が身につきます。理想は4年生の間に投稿できる形にまで仕上げてしまって、投稿しておいてもよいと思います。わたくしの研究室出身の方々の中では、卒論が刊行できる水準だった人はその後も概ね順調な経過をたどることが多いです。もちろん、卒論が不完全燃焼でもそのあと猛烈に伸びる方もおられますので、上手くいかなかった場合は必ずしも落胆せず、前向きに今後の取り組みに励んでいただければよいと思いますが、卒論はせっかくのチャンスですので、できるだけ質の高いものを目指しましょう。卒論がない学科の場合や、指導教員の先生が心理学の専門ではないという場合は、その先生を含めて、事前にご相談頂ければよい方法が見つかるかもしれません。

Q: コアタイムはありますか?

A: 定めていません。

大学院生は社員として雇用されているわけではなく、勤務(勉学)時間を管理されているわけでもありません。従って、何時から何時まで研究室にいなければならないという決まりもありません。大学院生さんは現時点では(アカデミックポストで独立した研究者として)自営目指す一人社長なわけですから、その大学院生さんの会社(未来のあなたの研究室)は社長である大学院生さん自身が働かなければ成長しません。一般には、研究室にいる時間が長い大学院生さんほど成功しています。「それって、ブラックということでは?」というムキもあるかもしれません。当人たちは楽しくてそうしているのですから、そのぶん成果も挙がります。この業界での研究はしたくてするものであって、指示されてするものではないでしょう。ただ長く居ることを推奨しているわけではありませんが、論文を読む、実験プログラムを作るなど、どうしても時間がかかることはあります。

中には自宅で作業するのが好き、という方もおられるとは思います。しかし、私たちの研究室では皆で工夫しながら被験者実験をしており、その過程には参加してほしいと思います。共同作業は苦手な場合でも、他人と関わらない職場は大学にはありません。こういう作業を避けたい人はこの業界には向いていない可能性があります。

Q: アルバイトはできますか?

A: できます(が。。。)。

チョットマッテクダサイ。何をしに大学院生になるおつもりでしょうか。もうあなたは学部生ではありません。学部生のときに「アルバイトと勉学の両立」ができていたとしても、それは大学院生として通用するものではないかもしれません。もし経済的にとても苦しいのであれば、常勤職就業までに数年かかる大学院生を目指すのはやや危険です。上の「-若干の経済力があること」でお伝えしたとおり、フェローシップなどを得ることを目指して、まずは研究成果を上げることが先決事項です。4月に大学院へ進学し、研究生活を始める前に早々と研究関連ではないアルバイト先を決めてしまうことは、アカデミックポストを目指す場合は重大な損となるかもしれません。大学院生さんはこの業界の専門知識・技術を学び、職を得ることが目的なわけですから、早くも自分が本業に専念できる時間を狭めているといえます。ここでいう研究関連のアルバイト先とは、研究室RA/TAや大学関連の雇用をいいます。商業施設・一般企業で長時間勤務することは研究の役には立ちません。塾・家庭教師も同様にアカデミックポストには無益です。教える技術が・・云々を言うなら、あなたの専門知識をまず高め、それを学会発表や論文刊行で同業者に伝える技術を高めるべきです。同業者にすら上手く伝えられなければ、一般社会で理解してもらえるようにはなりません。

もちろん、リフレッシュのために学外のそういった勤務先を設けて成功している当研究室のゆかりの人々もおられますので、まったく許容されないわけではありません。その程度がわからないという人向けには、次のように考えるとよいと思います。あなたが毎週その勤務に時間をかけている間、どこかの研究室で論文を読んだり、被験者実験をしている他の院生さんがいて、その人たちとアカデミックポストを競い合うのです。あなたのその不在時間が長いほど、あなたがアカデミックポストで仕事を得るまでの時間が遠のきます。それでも続けるべきアルバイトだと思うなら、大学院生は辞めて、そちらを専業にすべきかもしれません。

Q: 奨学金はありますか?

A: いくつかの制度があります。

給付型、貸与型があり、日本学生支援機構、民間奨学団体及び地方自治体の精度があります。この他、北海道大学フロンティア奨学金もあります。詳しくはこちらです。進学したら、本気でやって、日本学術振興会の特別研究員に採用される(給料のようなものが貰えるようになる)よう頑張りましょう。そうなることを目標にして指導します。頑張れば報われる世界ですので、まずは夢を持って、それから具体的な計画を立てましょう。